住民投票における投票運動
2025/05/31
「多目的屋内施設及び豊橋公園東側エリア整備・運営事業」(いわゆる新アリーナ計画)の継続の賛否を問う住民投票条例が豊橋市議会で可決され、豊橋市初の住民投票が7月の参議院選挙と同時に行われることになりました。
そこで住民投票に当たって、一般市民がどのような運動・活動ができるのか、またはできないのかについて説明します。
目次
条例の定め
1
本条例では、
住民投票に関する投票運動は、買収・脅迫等を除き自由とする(15条1項)。
参議院選挙の選挙期間中は、投票資格者によるインターネット等を利用する方法を除きすることができない。ただし、参議院選挙の投票運動又は政治活動が、投票運動におよぶことを妨げるものではない(15条3項)。
と定められています。
簡単にまとめると、
参議院選挙の公示日より前であれば、買収や脅迫など不当な方法を除いて自由に投票運動を行うことができ、
参議院選挙の公示日以降は、18歳以上の選挙権を有する豊橋市民のみがSNSやネットを利用する方法(電子メールを除く)でのみ投票運動を行うことができる。
ということになります。
投票運動とは何か?
2
では、公示日より前であれば自由にできるとされる投票運動とはどのような運動のことでしょうか。
本条例は、投票運動を具体的に定めていませんが、選挙運動(最高裁昭和38年10月22日判決など)とパラレルに考え
賛成又は反対を得ることを目的として、投票を得るために直接又は間接に必要かつ有利な行為
が投票運動に当たると考えられます。
簡単に言えば、
賛成又は反対の投票行為を勧めること
が投票運動に該当することになります。
公示日の前日まで、できる投票運動
3
街頭や屋内での演説会・説明会の開催、ポスター・看板の掲示、ビラの頒布、自動車・拡声器の使用、WEBページの作成、SNSへの投稿、CMといった投票運動を、個人・団体を問わず誰でも行うことができます。
また、公職選挙法は選挙運動について、未成年者によるもの、戸別訪問、署名運動、人気投票の公表、気勢を張る行為、連呼行為(一部許可されているものあり)、候補者・政党等以外による電子メールの送信を禁止していますが、本条例では禁止していないため、上記各行為での投票運動を行うことができます。
公職選挙法は、公示日より前の選挙運動(事前運動)を禁止していますので、投票運動に伴って選挙運動をしないように注意が必要です。公職選挙法違反になります。
また、投票運動に伴い、道路や公園、広場を行進・占拠したり、私有地を使用する場合には、許可等が必要な場合がありますので、管理者に確認してください。
公示日から投票日前日まで、できる投票運動
4
本条例は、「投票資格者」が「インターネット等を利用する方法」で投票運動を行うことができると定めています。
まず、投票資格者のみが投票運動を行うことができることになるので、18歳未満、他の市町村住民及び外国人は投票運動ができません。
次に、可能な投票運動は、インターネット等を利用する方法に限られます。具体的には、WEBページ、SNS、ブログ、動画共有サービスへの投稿・アップロードが可能で、電子メールの発送はできません。
また、公示日前日までに掲示したポスターや看板について、撤去する必要があります。
他方で本条例は、参議院選挙の投票運動又は政治活動が、投票運動におよぶことを妨げるものではないと定めています。
電話による参議院選挙の投票依頼、路上や車中でたまたま会った人に対して行う参議院選の投票依頼は、適法な選挙運動になるので、参議院選挙の投票依頼に伴って住民投票の投票依頼をすることは可能です。
なお、公職選挙法に違反しないことが前提になるため、未成年者による投票運動や、戸別訪問はできないので、注意してください。
投票日にできる投票運動
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WEBページの作成、SNSへの投稿を含め、何もできません。
SNS等の更新はできませんが、投票日前日までに投稿などしたものについては、そのままにしておくことができます。
いつでもできる運動・活動
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選挙運動や投票運動に当たらない運動・活動は、例え投票日であってもいつでも自由にすることができます。
例えば、「投票に行こう」との呼びかけ、賛成・反対の投票依頼に該当しない自分の意見(「賛成」「反対」)の表明、投票依頼に該当しない学習会の開催といったものであれば、いつでも行うことができます。
賛成又は反対の投票行為を勧めるものでなければ、いつでも、誰でも、自由に行えます。
過去の市長選挙、2度にわたる直接請求、12月議会での住民投票条例案の取下・否決、契約解除についての条例制定及びその後の審査申立・提訴など、新アリーナ計画を巡って混迷をしてきました。しかし、いわゆる新アリーナ計画の継続の賛否について住民の意思を的確に反映させることを目的として住民投票が行われ、市長及び市議会は住民投票の結果を尊重しなければならないとされているため、今回の住民投票でその決着がつくことが見込まれます。
新アリーナ契約については、交通渋滞や解除に伴う損害賠償額・損失補償額(逸失利益を含む。)など、様々な問題や明らかとなっていない事柄が多数あるが故に、様々な対立が生じ、これまでの経緯を辿ってきたものと思われます。
解除に伴う損害賠償・損失補償については、何年分の逸失利益となるのかという問題の外、当該コンソーシアムとして初めての事業であることや類似事業が乏しいことから、そもそもその金額を予想・算定することが困難であると予想されます。
不明なことについては、疑心暗鬼やデマも招きやすいですが、分からないこと・明らかにならないことがあることを前提にして、情報の発信者も受信者も冷静に対処していくのが重要だと思います。
豊橋初の住民投票に立ち会える身として、私自身、誤った情報を発信しないように注意しつつ、投票に臨もうを思います。
(蛇足ですが)契約解除の条例の適法性については、私は疑問に感じているので、最高裁の判断がみれないことが心残りです。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
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